掛け軸の製作 修理 修復 再表具
伊庭表装店は実際に私が掛け軸を作製および修理、修復している、100年以上続く古くて小さな表装店です
掛け軸製作の情報がお役に立てばと思っています
少し前まではどこの町でも表装屋さん、表具屋さん、経師屋さんがあって、襖や障子を張替えて、そこそこの掛け軸を作ってくれたものでした。
表装 表具 経師という言葉はほとんど同意語です。
今ではその店も消え残った店はクロスと襖の店になって、掛け軸などは作らなくなってしまいました。
家のある掛け軸が雨漏りで雨シミが出来て、表装を作り直したいとか
ボロボロになった掛け軸をなんとか表装し直して保存したいとか
「書」を知り合いからいただいき、掛け軸に表装して飾りたいけど上手な表装屋さんを知らないとか
こんな時はほとんどお手上げ状態です、近所に掛け軸が作れる表装屋さんはもういないのですから。
時代の流れといってしまえばそれまでですが、目先の利益にどうしても追われ
時間と手間のかかる表装作業を敬遠したため、掛け軸を作れる職人がいなくなってしまったのです。
掛け軸が自信を持って作れるといえるのは20年以上の経験と見識と技術が必要です。
新しい作品ならまだしも、古い掛け軸で雨シミが出て、無数の折れシワがあり、裏打ちを3枚剥がして作品を裸にして
再度掛け軸に表具し直す依頼など、普通の表装屋さんでは出来ないのです。
掛け軸について
丸表装の掛け軸です。緞子仕上げ | 茶掛け三段表装の掛け軸です。緞子仕上げ |
200年くらい前の掛け軸です。裏打ちを全部はがして再表装しました | |
依頼人のお母様が戦前のまだ10代の頃 お書きになった書です。 全体にシミが出ておりシミ抜きをしてから表装しました。 |
|
6畳大の360X270mmの特大掛け軸の仕立て直しの依頼。約300年くらい経っている掛け軸で本紙まではがし紙1枚にしてから再度掛け軸に仕立て直しました。 古い裂地はそのまま使い、全て一人で作成しました。
札所集印掛け軸
裂地は当店オリジナルの裂地ですが、青地金襴 赤地金襴 各自のご宗旨の紋柄
その他ご希望の金襴 緞子で製作出来ます お問い合わせ下さい
写真の裂地は30年以上を扱ってきた中で、普段使い出来る掛け軸として
又仏事で使える掛け軸としてどちらにもお使いいただけるようになっています
日常的に床の間に掛けておいても違和感の無い掛け軸です
金額 出来上がりどちらもご満足いただけると確信しています
四国八十八ヶ所 西国三十三ヶ所 秩父札所 坂東札所などの集印掛け軸
札所集印の為の白地の掛け軸は当店で各種ご用意出来ます
掛け軸や額装に仕上げられます
拡大した写真です
紺色の裂地は当店オリジナルの光輪の柄で仏式の掛け軸 額装に使用しています
掛け軸の仕立て直し実例
古い傷んだ掛け軸でした、折れもひどく大量の雨シミも出て当初は再表装は無理だとお断りしたのですが失敗してもかまわないから、作業をしてくれとの依頼でした。写真で見る状態より、かなり悪い状態です。
シミを抜いて、完全に裏打ちを剥がし、折れを直し、最初の裏打ちを施し、仮張りに貼り込んだ状態です。ここから掛け軸の作製の作業に入ります。
掛け軸の形が整いました。折れも雨シミもなくなりました。特に漂白をかけた訳ではありませんがシミ抜きの作業で若干の漂白がかかります。掛け軸の完成です。
お問い合わせの多い内容を質問形式にしました。
Q. 家にある「書」や「絵」を掛け軸にしたい
A. お好きな裂地で床の間に合わせて掛け軸に出来ます
作品の裏打ちをはがして裏打ちをし直して再表具をします
古い裂地が使える部分は使いますが、無理な場所は新しい裂地になります
Q. シミが出た掛け軸のシミが取れますか
A. 紙の掛け軸でしたらほとんどのシミは取れます
漂白も同時にかかりますから若干白くなります
絹地の場合 紙の作品のようには抜けないです
少し跡が残りますが大分綺麗になります
Q. 掛け軸や裏打について知りたい
A. このホームページで詳しく説明してありますが、
さらに詳しい説明をご希望の場合には電話かメールにてお問い合わせください
掛け軸の作り方には以前からの時代表装とプレスで仕上げる現代表装があります。現代表装は50年くらい前に書道展のために、早く安くとの要望で開発されました。大きな違いは裏打ちの紙です。手漉和紙を使うか、今風の和紙を使うかで耐用年数が違ってきます。手漉和紙は1,000年持ちます、今風の和紙は持って50年から60年くらいです。昔風の時代表装の耐用年数は掛け軸の使い方にもよりますが、200年くらいを想定しています。ただ紙も当初からは大分改良されて良くなりました。仕上がった後の掛かり具合ですが、普通の状態では変わりはありません。ただ自然換気ではなく冷暖房の強い現代においてはプレスで固めた現代表装に利があります。当店では最初の裏打ちは手漉和紙で打ち、仕上げを現代表装で仕上げる掛け軸が一般的です。周囲の布地も正絹緞子を使用すれば見た目は変わりません。どのような表装をご希望になるのかは、お客様の気持ち次第です。時代表装の作り方を記しておきます。
掛け軸の出来るまで
1 形式を決めます
掛け軸の形式は本来自由なものです
いかに作品を引き立たせるかが一番大切なことです
一般的な形式は先人達が試行錯誤しながら、その時代と折り合いをつけ
形作ってきたスタイルですからバランスなどは素晴らしいと思います
掛け軸が茶会などで使われるものなら、茶掛けの形式に
普通の床の間に掛ける予定なら、そのような形に
仏画なら仏用の仕立てに
中国の絵画なら中国の形式の明朝形式に
というのが一般的ですが
しかし最優先は依頼者のご意向です
お望みの形でお作りいたします
2 裂地を選びます
スタイルが決まった後は裂地選びです
化繊から本金襴まで多種多様な裂地があります
着物地でも使えるものもありますが、掛け軸用の裂地は糸の撚りを弱くし
巻き易いように特別に作られています
金額も上と下で100倍以上の開きがあります
だいたいは作品のレベルで選ぶのが一般的です
裂地は衣裳ですから衣裳が立派だと何となく立派に見えてくるから不思議です
3 肌裏打ち(はだうら)
作品と裂地に一回目の裏打をします
美濃紙を使用します
この紙は楮紙で繊維が長く丈夫で作品や裂地のからみつきが良いためです
4 増裏打ち(ましうら)
肌裏の終わった裂地と作品に増裏打ちをします
厚みをつけたり調子を整えたりする裏打で吉野産の美須紙を使用します
奈良県の吉野で作られている紙で、他の紙とは作りが違い、ふつう
は漉き上げたあといったん重ねて脱水してから板張りをしますが、
美須紙は漉きっぱなしで干板に張ります。
脱水をしないので紙の両面ともザラザラしています。
もうひとつの特徴は、紙を漉くときに白土を混入することにより
透けが消えたり柔らかい紙になります。
その柔軟さを利用して、肌裏打ちされた本紙や各部の裂のそれぞれ
の厚さや伸び縮みなどのバランスを取ります。
5 切り継ぎ
作品と裂地を継いで掛け軸の形にします
掛け軸の形が見えてきました
耳折りをし 軸袋 八双袋などを取り付けて上裏打ちの準備をします
6 上裏打ち(あげうら)
最後の裏打になります
作品が大きい場合には三回四回と増裏打をしますが普通は三回目の裏打です
紙は吉野産の宇陀紙を使用します
楮に白土を混入して漉き上げ脱水して板張りをしているので、
ひきしまったなめらかな紙質をしています。
当店の掛け軸は百年以上は持つように作られていますが
それは材料の和紙が手漉きの上物を使っているからで
同じように作っても和紙が悪ければそんなには持たないと思います
7 仕上げ
上裏打の後仮張します
一週間以上経過した後、一度剥がし、裏擦りを施した後再度仮張します
裏擦りは裏のすべりを好くし艶を出し、くせを直し柔らかく仕上げるためにします
再度の仮張(返し張り)は三ヶ月以上張っておきます
雨が降れば紙が伸び、晴れれば縮みを繰り返し、裏打ちの紙同士がなじみ
その間に糊は完全に乾いていきます
余分な紙を切り取り 軸 八双 風帯を取り付け 上部にひもを取り付けて
掛け軸の完成です
一幅にかかる日数三ヶ月以上
最後に
この作業工程はあくまで現在私が行っている表具作業であり、
各表具師さんはそれぞれ独自の作業工程 材料で作業しています
お店や個人で微妙に違っているのが実情です
掛け軸の仕立て直し 実例
表が仏画 裏がハスの絵の掛け軸 上手に裏も剥がして1枚ずつ2幅の 掛け軸に作り直してとの依頼です |
裏側のハスの絵です |
裏側のハスの絵を剥がします、1枚の裏打ち紙では無く4枚に分かれています。
仏画の掛け軸の完成です | ハスの絵の完成です |
掛け軸修復 再表具
折れのひどい掛け軸でした。糊が固く紙の生(ショウ)もなくバリバリでした。
掛け軸の完成です。
掛け軸の再表装 直しの実例
ご先祖様の肖像画です。シミは出て裂けてボロボロの状態です。紙の切れてしまった所はつながる訳でもなく、何とか目立たなくする予定です。
大分綺麗になりました。切れたところもほとんどわからなくなりました。
掛け軸の再表装 直しの実例
これもまたかなりひどい状態です
掛け軸の完成です
*****************************